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 !  必 読 事 項





キャラ設定について
鳴滝/弦麻/迦代
執筆:A氏
スクロールする前に必ず ココ を読んでね。

夜 鶴 如

 見上げる月はひどく赭かった。
 それはまるで、これからの道程を示唆するかのようで。
「逢魔ヶ刻を告げる赭い月」
 見上げる男の傍らで少女がぽつりと言った。
「まるで、血のようですわね」
 どこか哀しげに響く声に、男は月から視線を落とした。
 小柄な少女は長く伸びた黒髪を風になぶられるに任したまま、静かに夜空を見据えている。
「迦代さん……」
 男が名を呼ぶと、彼女はにこりと微笑んでみせた。
「……私、『死』を怖いとは思いませんの」
「……………」
「私が怖いのは、大切なあの人を傷つけてしまうことだけ」
 微笑んだまま、少女が男を見る。
「貴方と同じですわ、冬吾さん」
 何も彼も見透かしたような黒い瞳に男がわずかな戸惑いを見せた。
 それを認めて、彼女は再び月を見上げた。
「……先刻、道心様に自分が『菩薩眼』の力を持っていると言われて、私、正直、ほんの少しだけ喜びましたの。だって、柳生との闘いで傷つくあの人を見てることしかできなかった私が、貴方と同じようにあの人の力になれるんですもの」
「それは………」
 貴方は彼の側に居るだけで十分助けとなっているのだと、そう言おうとして、男は口ごもった。
 彼女が求めているのは、そんな言葉ではない。
 そう思ったからだ。
「でも、私は柳生よりも、もっと質が悪いですわね。本当にあの人を追い詰めているのは私。傷つけているのも私……」
「迦代さん」
 微笑を浮かべたまま、自らを追い詰めていく少女の言葉を遮るように男が呼んだ。
「弦麻は……あいつはそんなふうに思ってはいませんよ」
 男の言葉に少女の細い肩がわずかに揺れた。
「……そうかも知れませんわね。いいえ、そうですわね。でもだからこそ、私は私を許せませんの」
 吐息が震える。
「……誰よりも、何よりも大事だから……」
 きりっと少女は形のよい唇を噛みしめた。
 月の光を受け、濡れたように輝く黒い瞳がすべての思いをも閉じ込めるようにゆっくりと閉ざされる。
「……………」
 そんな少女にかけるべき言葉を見失い、男はただ沈黙した。
 見上げた空をゆるやかに雲が行き交い、時折、月を覆い隠していく。
 再び、少女が目を開けた時、彼女の晒されていた心はその月のように覆われ、男には伺うことのできぬ場所へと沈んでいた。
 それが証拠にいつもと変わらぬ菩薩のごとき微笑が少女の唇を彩っていた。
「申し訳ありません。こんなことをお話しして」
 軽く頭を下げる少女に男は小さく息をついた。
「構いません。ただ、ひとつだけ……教えてください」
「何か?」
「なぜ、俺に……俺だけに話したのですか?」
 真っ直ぐに見つめる男の視線を静かに受け止めて、少女は鮮やかに笑った。
「だって、私と同じようにあの人をとても大切に思ってらっしゃるから」
 どちらも同じ存在を。
「だからですわ」
 己の命を引き換えにしても護ろうとするほどに。
 その言葉に男が苦笑を浮かべる。
「そうでしたね」
「そうですわ」
 少女もくすくすと笑った。
「あら」
 その軽やかな笑い声に誘われたように現れた二人の青年を見て、少女が更に笑みを深める。
「楽しそうだな」
 片手に長い布包みを持った青年が、二人を不遠慮に眺めた。
「何を話してたんだ?」
 穏やかな口調で尋ねる青年に二人は顔を見合わせると、唇に人差し指を押し当てて悪戯っぽく片目をつむって見せた。
「私たちが貴方をどれだけ大切に思っているか、競い合ってたんですわ」
「え?」
 冗談めいた言葉に、きょとんと青年が大きな瞳を瞬かせる。
「んなアホなことを談笑しあってたのか、お前ら」
 持った包みで自分の肩を叩きながら、呆れたようにもう一人の青年が言った。
「あら、アホじゃありませんわ。大事な事ですわよ」
 ねぇと少女が男を振り返る。
 男は苦笑にも似た表情で、戸惑いを浮かべる青年を見下ろすだけだ。
「へえへえ。まあ、んなコトはどうでもいいけどよ。ジジイ共が呼んでるぞ」
 聞く耳持たぬという風情でそれだけ言うと、包みを持った青年はさっさと来た道を戻っていく。
 それを見送って、少女は青年を振り返った。
「では私たちも行きましょうか」
「冬吾。迦代さん」
 促されて、我に帰ったのか。青年が、二人の名を呼ぶ。
「俺も……。二人のこと、とても大切だから」
 決して逸らされることのない真っ直ぐな瞳が二人を見つめた。
 その瞳と同じ偽りのない真摯な言葉に二人は静かに頷くと、その口許に柔らかな笑みが浮かべた。
「ええ、……よく知ってますわ」
「ああ」
 痛いほどに。
 その思いを知るからこそ、尚、彼の元を離れられずにいるのだから。
 ふわりと笑う二人につられたように青年も笑みを浮かべる。
 空にかかる月のように淡い少女の笑みとは、対極に位置する陽を思わせる暖かな笑み。
 それは二つの闇を優しく照らす晧い光だった。
 何物にも代え難い、ただ一つの……。
 二人を呼びに来たことを思い出したのか、慌てて青年が二人を促す。
 その後を追うように、星すら呼吸を潜めるような静寂の夜の中を、確かな足取りで二人は歩き始めた。
 未来の見えない暗闇を照らし、彼らを導く光の後を。
 その先に例え、何があろうとも決して後悔しないだろうことを二人は確信していた。

すみません。意味わからないっスよね(汗)
とりあえず、迦代さんと鳴瀧はすごく弦麻が大事なんだよ〜ってことで(汗) BY A氏

Web初掲載:1999/10/22
Web再掲載:2000/12/01



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